およそ20年前、季節は秋から冬、ちょうど今くらいの季節だったと思う。お茶の水にあるカザルスホールのエントランスで、楽器のセールが催されていた。当時、僕はペイヴメントやべック、K Recordsのバンドが好きだったので、そんな彼らが愛用していたFenderのギター、特にMustangやJazzmasterのような、少し歪なギターが欲しかった。しかし、それらは高価で、予算を上回るものばかりだった。その内に本体より値札ばかりを眼で追うようになり、少しすると、手ごろな、しかもUSA製のヴィンテージギターの値札に辿り着く。'76年製、ボディーはMustangと同じ形、色は黄ばんだホワイト、そしてピックアップがフロントのみでアームなし、名はMusicmaster。人と違うもの所有することが個性だと勘違いしていた初心な青年は、即座にそれを購入するのだった(値段が強く背を押した)。
数日前、我が愛器は、ピックアップを換え、乾燥しきっていた指板にオイルを塗り込み、全体を綺麗に磨かれたことで、眠りから覚める。数年悩まされた雑音は、ピックアップが原因と分かっていたが、換えられずにいた。音色が変わってしまうことを危惧したためだ。しかし、そもそも本来の音とはなんなんだろうか。そんなことより気持ちよく弾けた方が楽器としては幸せなのではないか。そんなことを考えているうちに僕は、半ば無意識にネットでピックアップを物色していたのであった。